手の痛み
手の痛みは日常生活の不便さに直結します
手や手首の痛み、動きの制限は日常生活の不便さに直結します。
私達は普段意識せずに手を使用していますが、手や手首は、朝起きて顔を洗うところから、歯を磨く、お化粧をする、箸を持つ、スマホを操作する、カバンをつかむ、ドアノブを回す、車の運転、物をつかむ、文字を書く、そして就寝に至るまで、様々な日常動作に大きくかかわっています。そのため、手の痛みや動きが少し制限されるだけでも日常生活や仕事に大きな支障をきたすことがあります。
また、手は「手さぐり」という言葉があるように、触ることでたくさんの情報を感じることができる重要な感覚器の一つです。「手ぶり」という言葉があるようにコミュニケーション・ツールとしての役割も持っています。
このように、手の障害は私たちの日常生活に大きな影響を及ぼします。ほんの少しの違和感でも暮らしや心に支障をきたす可能性があります。その辛さを諦めて付き合っておられる方も多いですが、異変を感じられたらお気軽にご相談ください。
手の病気は100種類以上あるといわれており、関節や腱が変性する変性疾患、事故などのケガ、腫瘍、先天性の病気など多岐にわたります。
このうち、ケガ(外傷)、腫瘍、先天異常を防ぐ手立てはないですが、変性疾患については予防し治療できる時代となってきました。高齢化に伴い、70歳の全人口の85%以上に手指の変形があると言われています。適切に治療を行なえば、「痛みがなくて、使いやすく、形のいい状態」にできる可能性があります。当院で何らかの答を見つけられるかもしれません。ぜひご相談いただきたいと思います。
手に異常を生じる原因
外傷によるもの
手首や指のケガ、捻挫、骨折などによる異常がこれにあたります。
骨や関節の変形
何らかの病気や年齢を重ねることで骨の変形がおこり、それが痛みや動きの不良といった機能障害につながります。また骨折やケガをきっかけに骨が十分に治癒しなかた場合にも生じます。
腫瘍
手や手首には様々な種類の腫瘍や腫瘍類似疾患が発生します。そのため小さな隆起でも腫瘍を考える必要があります。
先天異常
お母さんのお腹の中にいる時期に手足を形成する過程で、発育が止まったり、骨が分かれなかったり、指が多く出来てしまったなどにより、手の先天異常が引き起こされます。
主な症状
- 手や手首に痛みや腫れがみられる
- 手首や指が動かしにくい
- 指の形が変形している
- 指を動かすと中でひっかかる
- 指にしこりができた
- しびれを感じる など
代表的な病気、ケガ
手の病気やケガを原因別に分けると非常に多彩です。
- 骨折(橈骨遠位端骨折骨性、舟状骨骨折などの手根骨骨折、マレットなどの手指の骨折)
- 変形性関節症(母指CM関節症、ヘバーデン結節・ブシャール結節)
- 腱鞘炎(ばね指、ドケルバン病)
- 神経障害(手根管症候群、神経損傷)
- 炎症性疾患(関節リウマチ)
- 腫瘍(ガングリオン)
- 腱損傷(伸筋腱断裂、 屈筋腱断裂)
橈骨遠位端骨折
橈骨遠位端骨折とは、橈骨が手首のところで折れる骨折です。転倒した際や踏み台やベッドなどから転落したときなどに手をついて受傷します。
症状は、前腕から手首にかけての強い腫れと痛みがあります。骨折のずれが大きいと手首はフォークのように変形、またはフォークの背のように変形します。また、手がぶらぶらになるため、反対側の手で支えるようになります。骨折した骨や腫れの程度によっては正中神経麻痺が起こり指がしびれる場合もあります。
骨折の中でも頻度が高く、特に閉経後の中年以降の女性や高齢者では骨粗鬆症で骨が脆くなっているため骨折しやすいのですが、若い人でも高所から転落した場合や交通事故などで強い外力が加わると起こります。骨折した場所が変形したまま治癒してしまうと、後の生活に大きな支障が出る危険が高まります。
治療方法としては、まず始めに徒手整復とギプス固定が試みられます。骨折のずれが大きい場合、粉砕骨折、関節内骨折の場合には手術が必要になります。治療後は手首の可動域制限(動かせる範囲が狭くなる)が残りやすくなるため、正しい知識に基づいたリハビリを加えることが重要となります。当院では患者さん一人一人の状態にあわせた回復のためのプログラムを作成し、丁寧なリハビリを行っております。
子供の骨折の場合は自家矯正力が強く骨の癒合も早いため手術が行われることはまれです。
赤矢印の分が骨折しています。
舟状骨骨折
舟状骨骨折は、スポーツや交通事故などで転倒し手をついたときによく起こる骨折です。舟状骨は親指に近い手関節を構成している手根骨の1つです。
症状は、急性期では手首に近い親指の付け根部分に腫れと痛みがあります。それらはあまり強くなく、レントゲンで骨折線がみられないこともあります。そのため捻挫と間違われやすいのが特徴です。様々な角度からレントゲンを撮影することや、CTやMRIを行うことでようやく診断がつく場合があります。
治療としては、早期に発見された場合や骨折のずれが少ない場合には、骨折片を整復し、シーネやギプス固定、消炎鎮痛薬の内服などの保存療法を行います。舟状骨は血行が悪く骨が癒合しにくいため、6週間以上と長期間の固定が必要となります。骨片が多数あったり、骨欠損があったり、保存療法で癒合しない場合、受傷から時間がたっている場合には、ねじで骨折部を固定したり骨を移植したりする手術が必要になります。
正しく治癒しなければ偽関節(骨折が癒合しない状態)となります。その結果、手首が痛みのために動かしづらくなったり、力が入りづらいなどといった機能障害が生じます。
マレット指
野球やバレーボールなどでボールが指にあたる、いわゆる突き指によって起こりやすいケガです。指を伸ばした状態で指先を強く突いてしまうと第一関節にある伸ばす腱が切れたり(腱性マレット)、骨と腱の付着した部分が骨折を伴ってはがれたり(骨性マレット)することがあります。
症状は、指の第一関節が曲がった状態で、自力で伸ばすことができません。それに加えて痛みや腫れを伴います。
治療については、骨折があるかどうかで方法が異なるため、レントゲンによる確認が必要です。骨折を伴っていない「腱性マレット指」であった場合、固定用の器具を指に装着し、固定させます。骨折が認められる「骨性マレット指」である場合、骨折部分の固定などのために手術が必要になる場合があります。
母指CM関節症
親指(母指)のつけ根部分と手首の間にある関節をCM関節といいます。CM関節は手の中で最も負担のかかる関節の一つであるため変形が生じやすい場所です。中高年の女性によく見られます。
症状は、ものを握る動きなどをすると親指の付け根部分の手首が痛みます。ものをつまむ時やビンの蓋を開ける時など、母指(親指)に大きな力が掛かるような動きをする時も痛みが強く感じられます。病状が進行すると、患部付近が腫れ、親指が開きにくくなります。
治療については、関節の変形を元に戻すことは難しいため、症状を軽減したり、進行を防ぐことが目的になります。症状が軽度である場合、痛みや腫れを抑えるための湿布や消炎鎮痛剤、動きを制限するための固めの包帯を巻く処置や、関節保護のための固定器具などを装着します。また、ステロイドの注射を行うこともあります。治療を続けても改善が見られない場合、関節を固定するための手術や骨の切除、関節形成のための手術、人工関節置換術等が行われる場合があります。
ヘバーデン結節・ブシャール結節
「ヘバーデン結節」は、指の第一関節(DIP関節)が変形する病気です。親指以外の人差し指から小指にかけて、第一関節(DIP関節)が赤く腫れる、手の指が曲がる、関節の一部がコブのように腫れるなどの症状が出ます。数本の指にわたって症状が現れる場合があります。「プシャール結節」は、第二関節(PIP関節)に同様の症状が出ます。原因は明らかにされていませんが、加齢やホルモン、酷使による影響が指摘されています。
症状には、関節の腫れ、変形、痛みに加えて、指の曲げ伸ばしが制限されることもあります。治療としては腫れや痛みを抑えるためにテーピング等の固定、リハビリ、動作指導を行います。
指の変形を見て「関節リウマチ」と思う方がいますが、全く異なる病態です。
ばね指(弾発指)
ばね指とは手指に起こる腱鞘炎の一種です。腱鞘炎が長引くと腱自体が腫れてしまい、腱鞘(腱のトンネル)を通過する際に引っかかるようになります。指を曲げ伸ばしする際に痛みが生じたり、ばねのように反発する動きを感じるようになる病気です。主に手や指の使いすぎによって引き起こされます。一般的には親指が最も多く、また中年期の女性や糖尿病の方に多くみられる傾向があります。
症状は悪化すると指が曲がった状態になりそのまま動かなくなることもあります。痛みや熱が伴い生活に支障が出る場合や朝方に症状が強く日中は軽減する場合もあります。
軽い症状の方は、安静を基本として湿布・軟膏などの外用薬、リハビリ、注射(ステロイド剤)などで改善します。症状の重い方には手術を勧めます。
ドケルバン病
ドケルバン病は親指の腱鞘炎の一種です。親指や手首の過度な曲げ伸ばしにより繰り返し刺激が加わることで、手首の周りにある指を動かす「腱」に炎症が生じます。親指を酷使する作業が多い方や、授乳等で赤ちゃんの頭を手首で支えることの多いお母さんたちによくみられます。症状は、手首の親指側に痛みや腫れが生じます。また親指の曲げ伸ばしの際に痛みやひっかかりを感じるようになるのが特徴です。
治療は、まず安静を基本として手首を固定することで指や手首の動きを抑えます。医療用の固定具などを使用します。状態により鎮痛剤やステロイドの注射を使用することもあります。これらで改善が見られない場合は手術(腱鞘切開)が必要な場合もあります。
手根管症候群
手のひら側の手首の内部には骨や靱帯で囲まれた小さなトンネルがあります。これを手根管と呼んでおり、指を曲げるための腱の束と、正中神経と呼ばれる重要な神経が通っています。
手根管症候群とは、何らかの原因で手根管に圧力がかかり、中を通る正中神経が圧迫されて手の指に痛みやしびれが生じる病気です。妊娠・出産期や中年以降の女性に多く、ケガや骨折などの外傷、長時間の反復作業やスポーツなどで手を酷使することなどで生じます。透析をしている人に多いことも知られています。
症状として、親指・人差し指・中指のしびれと痛みがあります。進行すると親指のつけ根の筋肉のふくらみ(母指球筋)が痩せて萎縮し、次第に親指が動かしにくくなってゆきます。起床時や夜間、寝ている間にしびれと痛みは強くなります。この際、手を振ったり、指の曲げ伸ばし運動をすると楽になります。
治療は、安静を基本として装具やシーネ固定を行います。必要に応じて消炎鎮痛剤、ビタミン剤投与やステロイド注射による処置を行います。症状が重度で保存療法が効かない場合や筋肉が萎縮しているケースでは、手根管のトンネルを開いて神経の圧迫を取り除く手術が必要になります。以前は大きく皮膚切開を用いた手術法が行われていましたが、現在は内視鏡を用いた鏡視下手根管開放術や、小さな皮切による直視下手根管開放術が主流です。
関節リウマチ
関節リウマチは、免疫の異常(自己免疫疾患)により全身の関節に持続的な炎症が生じ、徐々に関節が変形していく病気です。手首や手指などの小さい関節に腫れや痛みが生じる場合が多いですが、膝,肘、肩などの大きな関節が侵されることも少なくありません。女性に多く、30歳代から50歳代が発症のピークと言われています。起床時には関節がこわばり動かしにくくなることと複数の関節に腫れと痛みが生じることが特徴的です。
放置すると軟骨や骨が破壊されて指関節や手関節に変形が起こります。徐々に日常生活に大きな支障を生じるようになります。
ガングリオン
ガングリオンは良性の腫瘤で、手首など関節の周辺や腱鞘のある場所に米粒大からピンポン玉くらいまでのしこりとして発生します。しこりは袋状になっており、その内容はゼリー状のものです。しこりは大きくなったり小さくなったりすることがあります。はっきりとした原因は明らかにされていませんが、男性よりも女性のほうが3倍も発症率が高いという特徴があります。
良性のできものであり、通常は無症状なため経過観察となる場合が多くみられます。しかしサイズが大きい場合や神経を圧迫する危険があると判断された場合には穿刺吸引処置や手術が行われます。
TFCC損傷・尺骨突き上げ症候群
手関節の小指側に三角繊維軟骨複合体(TFCC)という組織ありますが、これが損傷される病気です。症状は手関節の小指側の痛みで、手のひらを上に向けたとき、ドアノブ開けたとき、鍋を持ち上げるときなどに症状が生じます。
原因はスポーツや外傷が多いですが、加齢による場合もあります。レントゲンで尺骨が橈骨より長いこと(尺骨突き上げ症候群)が多く見られます。治療は、サポーターや装具による局所安静、消炎鎮痛薬の投与、ステロイド注射などを行いますが、効果が乏しければ手術となることもあります。
診断に必要となる各種検査について
レントゲン
骨折や骨の変形などの形状的な異常をはじめ、動作時の骨のぐらつき具合なども詳細に確認することができます。
MRI
靭帯や腱、筋肉、神経といったレントゲンでは捉えにくい軟部組織を可視化し、内部的な異常を明らかにすることができます。舟状骨骨折やキーンベック病などはMRIを行うことで早期から確実な診断が可能となります。
血液検査
関節リウマチなどの状態を評価するために血液検査を行うこともあります。
骨密度検査
橈骨遠位端骨折の場合、背景に骨粗鬆症が隠れている場合があります。その場合は骨粗鬆症の程度を評価した上で病気(ケガ)の治療を行うこともあります。
治療について
どのような病気(ケガ)なのか、その症状や程度がどの程度か、により治療内容は細かく異なります。詳細は「代表的なケガ、病気」の該当する項目をご覧ください。ここでは一般的な治療を記載します。
患部の安静をはかること
外傷のうち骨折に対してはギプスやシーネを、捻挫や靱帯損傷に対してはテーピングなどを用いて患部の安静を計ります。変形性関節症、腱鞘炎、神経障害などに対しては手や手首に過度な負担のかかる作業をできるだけ避けて、しばらく安静な状態に保つことが大切です。サポーターやテーピングも有効なことがあります。
薬物治療
痛み止めの使用や貼り薬、必要に応じてステロイド注射などを行い、症状緩和を行います。
物理療法
物理療法により深部の炎症を除去し、症状の改善を図ります。
正しい動作指導、リハビリテーション
日常的な動作によって痛みや変形が生じた場合には、負担を軽減させるための動作改善が必要となります。生活の中で無理なく取り入れられるちょっとしたアイデアから、痛みを繰り返さないための動きの修正、生活習慣の見直しを含めて指導いたします。
当院の取り組み
手は体の中で最も頻繁に使われる部位です。そのため手に何らかの障害が生じ、機能が低下することは、日常生活の不自由さに直結します。高齢者では健康寿命の短縮や介護につながります。
症状が軽いうちに治療を開始することが大切です。手首や指に痛みや動きの異常を感じたら、まずは整形外科にて詳細な検査を行い、原因究明を行うことが重要となります。異変を感じられたらお気軽にご相談ください。
治療にあたっては、形態的な改善だけではなく、機能回復のための適切な治療とリハビリテーションを加えることが重要となります。当院では、手のリハビリテーションについて患者さん一人一人に合った方法を提案いたします。
手術を行わないで治療すること(保存的治療)を第一に考えますが、手術を要する重症度の高い患者さんの場合は、連携している高次医療機関と密に連携し、適切なタイミングで紹介を行います。