肩の痛み
「肩の痛み」はどこから生じているか?
「肩の痛み」は大きく分けて以下の二種類になります。
- 肩の関節部分が痛い
- 首筋から肩にかけての範囲(肩の関節以外)が痛い
私たちが「肩」と言って指し示す部分と医学的に言う「肩」には概念の違いがあります。そのため自分が「痛い」と感じる感覚と、実際に痛みを引き起こしている部分との間に乖離が発生していることはしばしば見られます。
例えば、日々の診療現場では、首筋から肩にかけての痛みを訴える患者さんはとても多く存在します。これらは「肩こり」または「肩の痛み」と表現されることが一般的ですが、実際には肩の関節が原因ではなく首に問題があり痛みが生じている可能性が十分にあります。
痛みの発生源がどこにあるのか、別の病気が隠されている可能性も十分考慮しながら正しく分析・診断する必要があります。
肩の痛みは急性期(強い症状が発生している時期)から積極的に炎症を抑える治療を加えることが有効とされています。長く放っておくほどに関節が固まり治療には長時間を要します。肩に異常を感じたらまずは早期にご相談ください。
代表的な症状(病気)
- 肩の痛み
- 肩こり
- 肩の引っ掛かり感
- 腕が上がらない
- 腕の痛み・手のしびれ
- 首の痛み
肩関節に由来する痛みは、肩を動かした時や夜間に強く感じることが多く、痛みが長く続くと肩を動かすこと自体を避けるようになります。その結果、肩の動きが徐々に悪くなり、今度はそれが痛みの新しい原因になります。
このような悪循環を防ぐため肩の痛みは早期治療が何よりも必要とされます。
代表的な病気
肩こり
首こりと同様な症状です。重い頭部を毎日支えている首や肩の筋肉は疲労がたまりやすい場所です。「こり」や「はり」は徐々に痛みへと変わり、首すじ、首の付け根、肩、背中へ広がっていきます。時に頭痛や吐き気を伴うこともあります。
原因は基本的には筋肉の痛みであり、多くの場合骨には特別な異常がみられないことが特徴的です。しかし長期間放置すると症状が悪化し、変形が出現するなど骨にも問題が起こりやすくなるため早めの治療が肝心となります。
肩関節周囲炎
中年期以降の方に多くみられる疾患で、肩関節の周りが固くなり炎症が生じる病気です。代表的な症状は、肩から腕にかけて痛み、肩の動きの制限です。夜間の痛みが強く眠れないときや痛みのために服の着替えが不自由なことがあります。きっかけや原因が特にわからないことが大きな特徴です。
そのまま様子を見ていると、肩が動かなくなり悪化することがありますので、早めに受診し、適切な治療を受けることをお勧め致します。症状の経過は石灰沈着性腱板炎に類似しており、急性期と慢性期で治療法が異なるため、病態把握や正確な診断が重要です。
石灰沈着性腱板炎
肩を上げる腱(腱板)の内にリン酸カルシウム結晶(石灰)が付着し、夜間などに急に肩の痛みが生じ、肩が動かせなくなる病気です。中年期以降の方が多く、四十肩や五十肩と似たような症状が起きるのが特徴的です。
まずは安静を取りながらも症状の改善に向けたさまざまな治療アプローチが必要となります。診断は、関節の痛みの部位や関節の動きの制限を見る診察とレントゲンで腱板に石灰が付着しているのを確認します。詳細な検査として、他の病気との判別に、MRIなどを行うことがあります。
痛みを感じ始めてから約1カ月程度は強い炎症を伴います。安静時や夜間にも強い痛みが続くため、肩を動かすこと自体が難しくなります。
腱板断裂
上腕骨と肩甲骨をつないでいる筋肉の腱(腱板)が断裂する病気です。症状は、腕が上がらない、腕を上げる時に痛みやひっかかりを感じるなどになります。また夜間に痛みが強くなり、寝苦しい、目が覚めると訴える方もいます。
もともと、腱板は骨と骨とに挟まれた場所で動かすため、摩耗などの劣化がおこりやすい組織です。そのような構造的な弱さに加えて転倒などのケガや肩を長年にわたり使いすぎることなどが原因となり生じます。放置しておくと症状や断裂が進行することがあるので正確な診断と適切な治療が大切です。
インピジメント症候群
肩を上げていくとき、ある角度で痛みや引っかかりを感じ、それ以上にあげられなくなる症状の総称です。悪化するとこわばりや筋力低下なども伴い、夜間痛を訴えることもあります。
肩甲骨の一部(肩峰)がもともと下方に突出している、骨の変形(骨棘)が肩峰の下に生じてきた場合のほか、投球動作など腕をよく使うスポーツ選手にも発症します。
野球肩
繰り返される投球動作によって肩が痛くなったり挙がらなくなることを総称して野球肩といます。
ハンドボールやバレーボールなどオーバーヘッドスローイングをするスポーツで起こる肩障害も同様です。その原因は肩の使いすぎでインナーマッスルが疲労して肩関節が不安定になることです。関節がぐらつくために関節包や肩峰下滑液包に炎症が生じ、腱板や関節唇といった肩の重要な支持機構に損傷が生じます。
野球肩の治療は、痛みが取れるまで投げるのを止めてシップや痛み止めで様子見るではなく、痛みの原因がどこにあるかを念頭においた上でその部分を治していくために、積極的なリハビリによる保存療法が第一です。ほとんどの場合はこの保存的治療で治ります。
代表的なケガ
上腕骨頚部骨折
肩関節と肘関節の間の骨(上腕骨)の肩関節の近くの骨折で、上腕骨近位端骨折ともいいます。ご高齢の方が転倒などのけがで生じることが多いです。症状は、肩の痛み、はれ、痛みによる動きの制限があります。診断は、痛みの部位の診察とレントゲンで確認します。
治療は、骨折のずれが軽い場合は、三角布、体幹固定バンドを用います。併行して,関節可動域訓練や筋力強化のリハビリテーションを行います。
骨折部のずれが大きい場合は、手術を要することがあります。
鎖骨骨折
鎖骨骨折は、転倒して肩や腕に外力が加わって生じることが多い骨折です。
骨折すると、内側の骨が上方へ、外側の骨が下方にずれます。症状は、骨折部のはれ、痛み、腕や肩を動かせないことです。診断はレントゲンで骨折を確認します。
治療は鎖骨バンドと三角巾で固定しますが、骨折部が大きくずれている場合、粉砕が強い場合、骨がつかない場合(偽関節)は手術を要することがあります。
肩関節脱臼
いわゆる「肩がはずれた」状態です。肩関節はボールのような形状をした骨とお皿の形をした骨とが擦れあってできています。ボール側のサイズも小さく、お皿のくぼみもとても浅くできているため、もともと緩みやすく外れやすい構造となっています。
そのため無理な方向に強過ぎる力がかかった場合や、転倒して思いがけない角度で腕を強くついてしまった場合などには脱臼が起こりやすくなります。
脱臼した際に周りにある筋肉や靭帯、関節包などといった部分に損傷が起きると治りが悪くなり、繰り返し脱臼が起こりやすい状態へと陥ります。
脱臼を繰り返していると反復性肩関節症という病態に移行します。脱臼後は直ちに正しい位置に骨を整復し、しばらくの安静の後、適切なリハビリを加えて筋力回復を目指すことが課題となります。
診断に必要になる主な検査
肩内部の詳細な確認を行うため画像検査が必要となります。
レントゲン
骨の変形や骨折の有無など形状的な問題の発見をはじめ、動作時の骨のぶつかり具合や無理な負担が起きやすい構造になっていないかなども詳細に確認することができます。
MRI
肩関節内部の腱板、軟骨、筋肉などの軟部組織の状態を精密に確認できます。
治療について
病気またはケガの違い、症状や程度の違いによって治療内容は細かく異なります。
薬物療法
痛み止めの使用や貼り薬、必要に応じてヒアルロン酸やステロイド剤の関節内注射などを行い病状を改善します。石灰沈着性腱板炎に対する治療は針を用いた吸引などで炎症を抑えることもあります。
固定、安静
症状が強く出ている場合にはしばらくの期間、安静にして肩に無理な負担をかけないことが基本です。とりわけ骨折が伴う場合はある程度の骨癒合が得られるまでは固定します。
痛みが激しく腕を動かすことができない場合には、三角巾で腕を吊ったような状態にして固定し、肩の安静を図ることもあります。スポーツによる痛みの場合には十分に機能回復されるまで休養期間を設けることが大切です。
リハビリテーション
極超短波などを用いて肩周りの血行を良くしたり、筋肉のリラクゼーションを図かることで肩関節深部の代謝を高めます。筋肉のこりをほぐすような取り組みを中心にしてさまざまな物理療法を加えます。
正しい肩の動きの確認、ストレッチや筋肉を強化する効果的な運動を用いて硬くなった関節をほぐし、柔軟性の高い関節にしていきます。さらには、正しい腕の上げ下げや位置確認、再発を防ぐための負担のかかりにくい肩の使い方などを丁寧に指導させていただきます。
手術治療
保存治療では改善しない激しい痛みや可動域制限、骨折などで「ずれ」が大きい場合などは手術治療が推奨されます。
当院が提携している高次医療機関へご紹介を随時行っております。手術後には機能回復・改善に向けた効果的なリハビリテーションが必要となります。
当院の取り組み
当院では痛みを早く取り、機能を回復させるための効果的なリハビリテーションをはじめ、将来的に痛みを繰り返しにくくするためのトレーニングにも力を入れて取り組んでおります。
そのために精緻な分析をおこない、多彩な治療法をご用意して回復をサポートいたします。どうぞお気軽にご相談ください。