足の痛み
足は体の土台です
足は体の土台です。体を支えるために全身の体重を受けとめる場所なので大きな負荷がかかります。また歩行を行う際には、体重の他に運動エネルギーが加わるため、さらに大きな負荷を受けることになります。そのため足と足関節はケガを含めて障害の多い部位です。
足はたくさんの小さな骨が集まってできており、それらが多くの靭帯と腱で支えられています。サポートする筋肉量が比較的少ないため、縦横にわたって緩やかなアーチ構造をつくることで、荷重がかかる際のショックをやわらげて足全体がクッションの働きをしています。このアーチ構造になんらかの異常が生じると、足の骨や靱帯に直接の負荷がかかるようになり、変形による痛みや転倒しやすくなるなどといった問題が引き起こされるようになります。すなわち足の形が崩れることで、そこに生じる歪みが一番大きい部位に、痛みや変形といった症状がでてきます。
骨の変形は一度生じると治すことは困難です。そのため問題の治療を正しく行い、それ以上の変形を食い止める対策が不可欠となります。また足のケガや病気は治療を終えた後も予防的観点を含めた専門的知識に基づく経過観察とリハビリテーションが重要です。
足と足関節はスムーズな歩行を行う際に重要な働きをします。そのため足と足関節の健康を維持することは、私達の生活の質を向上させ、かつ高齢者の健康寿命を伸ばすことにもつながります。足の外来では、患者さんの足が正常からどれだけ歪んでいるのかを検査し、その状態や運動機能、生活環境などあらゆる面から検討し治療方針を患者さんと一緒に検討していきます。痛みや違和感を生じた場合にはけっして放置せず、すみやかに診察にお越しください。
主な症状
- 足首や足に痛みを感じる、腫れている
- 立ち上がりや歩き始めに強く痛む
- 足首がぐらぐらして不安定
- 捻挫を繰り返す
- 坂道になると痛い
- つま先立ちができない
- 皮下出血がみられる、など
捻挫では痛みがあるものの腫れが少ないこともあります。症状は数日で解消されるケースもありますが、長期にわたって痛みが徐々に強まってゆくケースもみられます。
代表的なケガ、病気
足関節捻挫(靱帯損傷)
足首を強く捻ることで足首や足の甲の靭帯(主に前距腓靭帯)が損傷することです。外側に向かって捻る場合(内反)と内側に向かって捻る場合(外反)があります。主な症状は足首の痛みと腫れで、症状が強いと歩行ができないこともあります。足関節捻挫はスポーツ中のケガとして大変多く、日常生活でも階段の踏み外しや転倒などによって起こりやすいケガです。
靭帯の修復は、炎症期(受傷早期)、増殖期(受傷3日目から8週間程度)、リモデリング期(受傷4週〜半年程度)の順に進行していきます。
診察には下記の検査のほか、足関節の痛みの場所や症状、足関節をどのようにしてひねったのかを確認することが大切です。
検査としては、レントゲンで骨折の有無を確認します。靭帯損傷の程度を確認するために、レントゲンでストレス撮影やMRIを行うこともあります。
足関節捻挫の重症度は以下の3つに分けられます。
1度 | 靭帯が伸びた程度の損傷 |
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2度 | 靭帯の一部が切れた状態 |
3度 | 靭帯が完全に切れた状態 |
治療法としては、1度や2度の場合は、日常生活での安静を基本とし、患部の安静を保つためにテーピングやギプス固定を行います。サポーターなどの装具を使うこともあります。同時に、痛みや腫れが強い場合は鎮痛剤や湿布を用います。靭帯が完全に切れている3度の場合や足関節に不安定性の強い場合は手術が必要となります。
捻挫をしても歩くことや走ることが可能な場合、自然回復を待って放置してしまうことはよくあることです。しかし正しい診断と治療が行われないと、靭帯修復が進まず後々痛みと不安定性が残ることがあります。また、靭帯が伸び切った状態でスポーツなどを行うと、足首の不安定性が改善していないため再受傷する可能性もあります。さらに足首をかばった状態で動作をする事により他の関節に負担がかかり、膝や股関節のケガにつながりやすくなります。特にスポーツ復帰を目指す場合、正しい診断と受傷初期の処置、早期リハビリが重要になってきます
足関節(脱臼)骨折
足関節骨折(足首のくるぶしの骨折)は、下腿もしくは足部が固定された状態でねじれの力や回旋力が加わることで発生します。下腿以下に起こる骨折のうち最も発生頻度が高い骨折です。
この骨折は関節内骨折のため、治療の目的は足関節の骨のずれを元に戻すことです。 また足関節では、強靭な靱帯で「すねの骨」と「かかとの骨」とが結ばれており、骨折の際にこれらの靱帯が切れたり伸びた状態のままになると足関節が不安定となり、痛みが残ったり関節軟骨が傷んでしまう変形性関節症へと移行することがあるので、治療に関しては靭帯にも十分な注意が必要です。
検査としては、レントゲンを撮影して骨折の有無、および転位(骨折部のずれ)の程度を診断します。状況によってはCTが必要になることもあります。
治療としては、転位(骨折部のずれ)が少ない骨折のみ保存的治療(ギプス固定など)が行われます。転位が大きい場合や整復しても不安定性のある場合は手術が必要になります。手術は骨折した骨を元の位置に戻して足関節を動かしても骨がずれないようにネジやボルトで固定します。
第5中足骨骨折
日常生活の中で、転倒や段差を踏み外して足を内側にねじったときに、足の一番外側にある第5中足骨と呼ばれる骨におきる骨折です。第5中足骨骨折は基部におきるものが多いですが、骨幹部に生じるものもあります。
骨幹部に起こる骨折は、スポーツや長時間の歩行などの繰り返し起こるストレスが原因により発生することもあり(疲労骨折)、これは治りにくく再発を繰り返す骨折といわれています。
検査としては、レントゲンが有用です。骨幹部骨折は受傷直後には写らないことがあるため、必要に応じてCTを行います。
治療としては、骨折部にずれがなければギプス固定行います。歩行時は松葉杖を使用して免荷とし、痛みが強い場合は鎮痛剤を投与します。多くの場合は骨折部のずれが少ないため手術の対象となる場合はまれですが、ずれが大きい場合は、手術による整復や固定が必要になってきます。
アキレス腱断裂
アキレス腱はふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)とかかとの骨(踵骨)をつなぐ腱です。踏み込み・ダッシュ・ジャンプなどの動作でふくらはぎの筋肉が急激に収縮した時や、着地動作などで急に筋肉が伸ばされたりした時にアキレス腱断裂は発生します。30歳から50歳位のスポーツ愛好家(バレーボール、テ二ス、バドミン卜ン、ソフ卜ボール)に多く見られます。
受傷時には、「ふくらはぎを棒でたたかれた」とか、「後ろからボールが当たった」などと感じることが多いようです。痛みは比較的軽く、しばらくすると歩行可能となることも少なくありません。しかし、歩行が可能な場合でもつま先立ちはできなくなります。診断に有用な所見として、アキレス腱断裂部に皮下のへこみを触れ、同部に圧痛がみられます。
治療には、ギプス固定などの保存的治療と、離開した断裂部を縫合する手術治療があります。保存的治療では、長期間の固定による筋力低下、足関節可動域回復の悪さ、再断裂率が高いというケースがしばしば見られました。しかし近年は早期からリハビリテーションを開始することで、保存的治療でも良好な治療実績が報告されています。どちらも長所短所があるため、患者さんの日常活動レベルやスポーツ活動レベル、既往症や希望など考慮して選択されます。どちらの治療でも、リハビリテーションが回復促進や後遺症軽減のため重要となります。
スポーツ復帰については、治療開始後4ヶ月位で軽い運動は可能となりますが、全力でのスポ一ツ活動ができるには短くても6ヶ月はかかります。
足底腱膜炎
足の裏には、足底腱膜と呼ばれる膜のような腱が、足指の付け根からかかとの骨まで覆っています。繰り返される物理的ストレスを受けた足底腱膜に炎症が起こる障害のことを足底腱膜炎といいます。陸上競技などのスポーツ選手やジョギングなどの愛好家に発症することが多いのですが、歩き回る仕事や立ち仕事に従事する人にも発症します。
足底腱膜炎の症状は、踵骨足底面に圧痛がある、長時間の歩行やスポーツ時に踵側に痛みがある、起床時に踏み出した一歩が踵をつけないほどの鋭い痛みを感じる、しばらく歩行していると徐々に痛みが落ち着く、などがあります。
検査としては、診察にて、痛みの程度や部位を確認します。足底腱膜がかかとの骨に付着する場所に圧痛があれば足底腱膜炎と診断されます。レントゲンでかかとの骨に骨棘と呼ばれるトゲ状のようなものがみられることもあります。足底腱膜が裂けている可能性が疑われればMRIで確認することもできます。
治療としては、足底腱膜への負荷を減らすために安静が基本です。運動量を減らすと共に痛みなどを抑えるため鎮痛剤や外用剤を使用し、症状が軽減しない場合には、ステロイド注射を行います。足の裏に均等に力が入るように土踏まずの部分を高くするような縦アーチサポーターやインソールなどの装具を使用することがあります。難治性の足底腱膜炎に関しては、対外衝撃波療法もあります。
アキレス腱炎(アキレス腱周囲炎)
アキレス腱はふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)とかかとの骨(踵骨)をつなぐ腱です。アキレス腱炎(周囲炎)は、アキレス腱に繰り返し負荷がかかることが原因で発症します。足首は多くの体重がかかる部位で、走ったり、ジャンプするなどの動作でアキレス腱周囲が過度に引っ張られます。このような動作が繰り返されるとアキレス腱周囲に過剰な負担が生じ、炎症が引き起こされ、結果としてアキレス腱炎・周囲炎を発症します。
症状としては、アキレス腱の周囲が腫れて、触ると痛みがあります。状態が悪化すると運動後にも痛みが持続します。
問診や触診などで症状や足関節の可動域などを確認し、アキレス腱周囲炎が疑われる場合はレントゲンやMRIなどの画像検査を行います。
治療としては、スポーツなどはいったん中止し安静を図るとともに、炎症や症状を抑えるため鎮痛剤や湿布などを用いたり、局所へのステロイド注射を行ったりすることがあります。場合によっては、テーピングや装具の使用、足首のストレッチなどのリハビリもなどがすすめられます。
変形性足関節症
変形性足関節症とは、足首の関節の軟骨がすり減って、関節に痛みを生じる状態です。軟骨がすり減る原因には加齢によるもの、過去に重度な捻挫や足首付近の骨折の既往がある場合、関節リウマチなどによるものがあります。主な症状は足首の腫れと痛みで、進行すると歩行が不自由になるなど日常生活に支障を来すようになります。
治療としては、変形の程度が軽い場合には、足底挿板(インソール)を用いて足部の荷重のバランスを整える、足首のサポーターを用いて足首の安定化を図る治療を行ないます。筋力トレーニングなどのリハビリ、鎮痛剤や湿布の使用、足関節内に痛み止めや炎症止めの注射をすることもあります。これらで痛みのコントロールが困難なケースでは手術的治療も行われます。手術的治療は、軟骨の傷み方や変形の重症度に応じて、骨切り術による関節形成術、足関節固定術、人工足関節置換術などが選択されます。
外反母趾
外反母趾とは、足の親指(母趾)が外側に曲がった変形を示す状態です。ヒールの高い靴や足に合わない靴を長期にわたって無理に履き続けたりすることや加齢に伴う変化によって体重のかかり方に変化が生じ、徐々に足の骨の配列に異常が起き、外反母趾が引き起こされます。変形が進むにつれて痛みや靴ずれなどといった問題に日常的に悩まされるようになります。
初期症状としては、靴やハイヒールを履くと足の親指(母趾)の付け根が赤くなり、痛みを伴う、足が疲れやすくタコ(胼胝)ができ普段の歩行がつらくなってくる、などがみられます。進行すると、母趾が大きく「くの字」に湾曲し、偏平足(土踏まずが無い状態)や足裏のタコ(胼胝)により、普通の歩行が困難になります。母趾が他の趾の下にもぐりこみ、さらに痛みが悪化することもあります。
検査としては、問診、視診、触診にて痛みの部位、症状の程度を確認します。レントゲンで骨の曲がり具合や関節の傷み具合をみます。
外反母趾の治療方法は保存的治療(手術をしない方法)と手術があります。
保存的治療は、靴の指導、運動療法、装具療法、薬物療法が代表的です。
靴については、痛みの軽減および変形の進行を抑えるため、母趾のつけ根がフィットして指先はゆったりとした形で、ヒールは低く、柔らかい素材の靴が推奨されています。運動療法としてはゴム紐を両足の母趾にかけて離す方向に力を入れるHohmann体操が有名で、軽度から中等度の外反母趾に対して痛みを軽減する効果が期待できます。装具療法は痛いところを除圧するパッド、歩行時や夜間に使用する矯正用装具、アーチを補強するインソールなどがあります。薬物療法は鎮痛剤の内服や湿布、軟膏、クリームといった鎮痛剤入り外用薬は他の保存療法と併用することによって痛みを軽減させることができます。
手術療法は、変形が進み保存的治療では痛みが抑えきれない場合におこないます。手術の術式は多数あり、変形の程度、足全体の形、体形、年齢、仕事内容などを考慮して最適な術式を選択します。
外脛骨障害
外脛骨障害は、足の内側にあるでっぱった部分に痛みや熱を生じます。くるぶし付近に痛みが出て腫れることもあります。スポーツ活動の盛んな10~15歳に多く発症し、運動を繰り返し続けているうちに徐々に痛みが強くなります。成人では、捻挫などの外傷で痛みが発症する場合もあります。外脛骨は正常人の15%前後にみられ、男性より女性に多く80~90%と非常に高い確率で両足に出現します。
診断は、外脛骨を圧迫して痛みがあるかどうかを診ます。またレントゲンにより外脛骨があるかどうか、その部位を押して痛みが一致するかどうかを診て行います。
治療としては、痛みのある間は運動を中止し、足を休ませます。痛みが強い場合は湿布や鎮痛剤を使って対処します。痛みを軽減させることや再発を予防する上で足の裏の筋力強化や下腿の筋肉の疲労をとり、ストレッチをして柔らかくすることも重要です。靴の選択も大切です。患部を圧迫するような靴は避け、幅広い靴を使用します。足底板などの装具も有効です。
症状を繰り返すものでも15~17歳の骨成長が停止する頃には自然治癒するケースが多いとされていますが、早期にスポーツ復帰を希望する場合は、骨接合術、骨片摘出術、経皮的骨孔術などの手術を行うこともあります。
骨端症(シーバー病)
子供の骨が成長をするときは骨のそれぞれ決まった部位に存在する成長軟骨(骨端線)が増殖しながら大きくなっていきます。この骨端線へ負荷が過大だったり機械的な刺激がくりかえし加わることで骨端症を発症します。
骨端症の症状は、骨端線がある部位の痛みです。骨端線は成長期の子供にしかありませんので発症するのは子供だけです。骨端症の中で「かかと」に発症するものをシーバー病と呼びます。シーバー病はスポーツ全般で起こり得ますが、特にジャンプや長く走ることが多いサッカー・野球・バスケットボール、裸足で競技を行う剣道・体操を行っている場合に起こりやすくなっています。
治療は「患部を休めること(運動量を減らすこと)」が中心となります。それに加えてストレッチ、温熱療法などのリハビリ、インソールやサポーターなどの装具療法が効果的です。痛みが強い場合は、松葉づえを使って、かかとへの負担を軽減させるケースもあります。定期的に痛みの程度とレントゲンでの回復を確認しながら、少しずつリハビリを行い、徐々に運動量を元のレベルに戻していきます。スポーツ復帰は1-2ヶ月で可能となることが多いです。
診断に必要となる各種検査について
レントゲン
足の骨に関して、骨折など外傷を含めた形態的な異常の有無について詳しく観察することができます。またストレステストなどを行うことで機能的な評価(関節の不安定性)を確認することもできます。
CT
足関節骨折など、関節内骨折の歳に関節面の状態を詳細に確認することができます。
MRI
軟骨、靭帯、腱といったレントゲンでは捉えにくい軟部組織の障害が想定される場合は、MRIで詳細な内部の状態確認が行われることもあります。脛骨などの疲労骨折や距骨離断性骨軟骨炎の早期発見にも用いられます。
治療について
どのような病気(ケガ)なのか、その症状や程度がどの程度か、により治療内容は細かく異なります。詳細は「代表的なケガ、病気」の該当する項目をご覧ください。ここでは一般的な治療を記載します。
患部の安静をはかること
外傷に対してはギプスやシーネ(主に骨折)やテーピングや装具(主に捻挫、靱帯損傷)などを用いて患部の安静を計ります。松葉杖を用いて荷重しないようにするなど負荷をかけないことも大切です。
変形性関節症、外反母趾などに対しても足に過度な負担のかかる作業をできるだけ避けて、しばらく安静な状態を維持することはとても有効です。サポーターなどの装具も安静を保持することに効果があります。
薬物療法
痛み止めの使用や貼り薬、必要に応じてステロイド注射などを行い症状緩和を行います。
リハビリテーション
治療がある程度進んだ段階からリハビリテーションを加えます。足は体重を支える部位であり大きな負荷がかかるためケガを繰り返しやすい場所です。柔軟性を高めるためのストレッチや筋力強化、バランス訓練などといった回復促進のためのリハビリテーションが効果的です。
装具治療
足の治療には、患部への負担を減らしたり、安静を計るために足底板やサポーターなどの装具が非常に重要です。とりわけ外反母趾や偏平足に対しては症状の軽減だけではなく症状の進行を防ぐ目的で足底板を用いることあります。
姿勢指導
正しい歩行訓練や姿勢改善を行うことで、症状を軽減するだけではなく、将来的な再発を防ぎます。予防的観点から姿勢指導を行います。歩容(歩き方)が改善すると全身状態の改善にもつながることがわかっています。
当院の取り組み
足は歩行に関わる重要な部位です。膝や股関節の治療とあわせて、「歩けなくなる、寝たきりなどを、いかにして予防していくか」を念頭に置きつつ患者さんに向かい合っています。
お一人お一人に適した治療メニューを行うことで、状態の改善を図り、普通の日常生活に戻ることを目指します。スポーツ整形に関する疾患も広く取り扱っておりますので、些細な症状でも足に異変を感じられたらまずは早めにご相談ください。
手術を要する重症度の高い患者さんについては、提携している高次医療機関へのご紹介、さらに専門性の高い治療を必要とされるケースにも柔軟に対応いたしております。